株式会社ミヤモト家具代表取締役 宮本豊彰のブログ

企業情報

お客様を失った日

2022年 7月

私は1人。大切なお客様を失った。

 

出逢いは2002年。

思えば、

会社設立後、間もなくした、節目の20年目のお付き合いだった。

 

 

 

前身宮本タンス店!個人商店の星になる!

 

 

 

私は27歳。

 

経営的には、どん底の時期の真っ只中で、

今となれば笑い話のネタにはなりますが、

当時は当然の事ながら、全く笑える状況ではなく(笑)

アルバイトをして溜めた貯金で購入した、犬のシゲオを除いては

アルバイト1人をようやく雇えたのはいいものの、

とにかく朝から深夜まで、休みなく猛烈に仕事をしては、

週に2回ほど、デスクの上で寝落ちしていたという時期でもある。

 

あれから20年もの間、今も弊社のお客様であり続ける人に出逢うなんて、

明日1日すらも、どうやって乗り切ろうかと思っていた私が、

未来のことなんて到底想像できるはずもなく、

そんな2002年に。私はT様と出逢った。

 

 

 

前身宮本タンス店の頃の写真

 

 

 

今のミヤモト家具では、

【お客様は我々にお給料をくださる人であり、「仕事のやり方」を教えてくださる人である】

といった、教育を受ける。

 

私にとってT様は、

これまでの長い間、会社経営をしてきた中で、

その言葉が身に染みて実感出来る人に出逢った、

まさに最初の人と言っても、過言では無かろうと思う。

 

毎年何かしら、家具や小物を私を名指しし、購入しに来られては

毎度毎度、私は時に厳しくも、T様からの【お叱り】を受けた。

 

特に酷かったのは、

2005年の出来事だ。

 

 

 

前身宮本タンス店!個人商店の星になる!   - コピー

 

 

 

今のままのやり方だと、

その日暮らしの状況は抜け出せないと思った私は、

当時、どこの家具屋さんでも主流となっていた、

2重価格【定価から割り引いて、実際の販売価格が明確で無いやり方】を、やめるコトを決心し、

初めから限界価格にて、ワンプライスで提示するコトを決行した。

 

そのやり方に切り替えた当時は、想像を遥か超えるくらい、

沢山のお客様からのお叱りを受けた。

 

 

 

「お前みたいな小さい家具屋の店主が調子に乗るな!」

「値引かないなんて何様だ!」

「こんな端数まで取ろうとするなんて信じられない!バカか?お前は?世間知らずか!」

「二度と来るか!こんな店!」

 

 

 

このような事を言われるというのは、

日々、「デジャブか?」と思うほど、週に何度も繰り返されたと記憶している。

もしもあの時の自分に、

少しでも気持ちの余裕があったとしたならば、

私はきっと折れて、元のやり方に戻したのだろうと思う。

しかしながら、あの時の自分には、そんな気持ちの余裕はなく・・・

 

 

「元に戻せば、また以前の、その日暮らしの自転車操業の繰り返しになるんだ…」

「それに、お客様の顔色を見て、実際の販売価格を決めるなんて、決して親切とは言えないはずだ」

「自分に親切にしてくれた、あのお客様は、私の言い値で購入してくれた。値引きを求められる人だけが得をするような、そんな不親切な家具屋であってはならない」

「どのお客様にも平等に、偽りなく限界価格でやっているんだから、自信を持って販売するんだ」

「真摯に対応すれば、きっとお客様だって、いつか分かってくださるはず!信じよう。」

 

 

そんな気持ちの往復で且つ堂々巡り。

 

 

そうして買われないお客様が続くと、

「自分のやり方、伝え方が悪いのか…」

そう思っては、

 

「これで本当に良いのだろうか?」

 

そう思い、時に自分の信念が揺らいでしまった事も、1度や2度では無い。

 

しかしながら、

 

「これが平均的に見た幸福度で言うなら、必ずお客様の為になるはずだ!」

 

ミヤモト家具を良い会社にしていきたいと思う自分にとって、

また、気持ちに余裕の無かった時期だったからこそ、

私はそこに踏み込めたし、以前の家具屋に戻るかもしれないという恐怖が、

そこに一歩踏み込めた、そんな原動力にもなってくれた。

 

 

 

そこで話を戻そう。

つまりは、そんな2005年の切り替えのタイミング以前から、

弊社のお客様であったT様が、ここに反発しないはずがなく、

私は何度もお叱りを受ける事となるわけだ。

とある日には・・・

 

「99,600円です!」

 

と私が言うと・・・

 

「あんちゃん!600円まで取るつもりか!そんなもん切っとくのが普通だろ!」

 

と叱られ、

私はその度に、毎度同じような説明を繰り返した。

 

「じゃあT様。僕はT様に値引きを強要されるのは初めてじゃない!

だから、それを学習していたら、

僕は金額を10万円です!って言ったでしょう。

でもそれはしたくなかった。

キリの良い数字を並べて、あたかもT様が得をしたような気持ちにさせることは難しくない!

でも・・・

 

安くして10万6000円!更に6,000円も切って、

10万円にしときますよっ!

って言われるのと、

初めから値引きせずに、

9万9400円です!って、

10万払って600円のお釣りを貰うのとでは、

どっちが得なんですか!!」

 

とか言って、このくだりを、かれこれ20年間の間で、

何度も繰り返したと思う。

何度話しても、何年経っても、いつも上記のくだりです。

 

 

僕がそれでも譲らなかったのは何故か。

それが「信用」だと思っていたからです。

 

 

私は何度もT様にお叱りを受けては、

それでも値引きをせず、その代わり、ワンプライスでギリギリの限界価格で売り切る。

これを2005年から貫きました。

 

T様はずっと納得されなかったけど、

それでも、何故か?必要な時は、必ずと言ってよいほど、

私に電話があり、この20年間。

弊社から数多くの家具をご購入し続けて頂いた。

 

 

 

富山県・石川県のミヤモト家具SOLIDで特注家具を依頼する (9)

 

 

 

時には、こんな難解な特注家具を

 

 

 

富山県・石川県のミヤモト家具SOLIDで特注家具を依頼する (10)

 

 

 

「ちゃんと作ってこいよ!」

と、ミヤモト家具の実力を試しているかのようなオーダーを頂いた事もあれば・・・

 

 

 

REN ダイニングテーブル特注 納品 富山 ミヤモト家具 (2)

 

 

 

去年は、「ホントにT様。このテーブル使うんですか?」と思うような、

滅多に入らない部屋のテーブルまでをオーダーいただいた。

 

 

 

理由はよく分からない。。。

 

 

 

あれは今からちょうど2年前。

新たに家具を購入して、私の携帯に電話があり、

 

「おいっ!あんちゃんよ!カネ用意したから、いつでも取りにこいや!」

 

と、定休日の水曜。

相変わらずの電話だったので、その日息子を保育園に連れていった帰り、

私は集金にお伺いした。

いつも自分を待っていてくれる時は、奥様も一緒。

 

「んで、なんぼになるんやったかの?」

 

と言われ、「いつものくだりだな…」と思い、

 

「85,360円です」

 

と答えた。

私は当然のコトながら、どうせまた、

 

「360円まで貰うつもりか!そんなもん払えるか!!」

 

と、言われると思って覚悟していましたが、

しばらく黙ったT様は、

 

「はいよっ」

 

と言って、私に86,000円を渡された。

「ちょっと、いつもと違うな…」と、

気持ち若干驚きながら、

 

「640円のお返しです」

 

とお伝えし、小銭を渡すと、

ビックリする返答が返ってきた。

 

 

 

「また、あんちゃんから買って、ワシは640円も得したな。。。」

 

 

 

と言って、私の顔を見たT様が笑った。

流石にその時は、相当驚いたけど、

なんだかムチャクチャ嬉しかったのだ。

 

 

ここ2年は。こんな感じのやり取りで、

値引きを言われることもなくなり、これもおかしな話なんですが、

それはそれで何故か?私に反発する元気もなくなったのか?

そこには何処か「寂しい」という想いもあった。

昨年12月に納品に行った時は、

 

 

 

REN ダイニングテーブル特注 納品 富山 ミヤモト家具 (5)

 

 

 

「あんちゃん!来年はそこに引出しの収納を作って欲しいから頼むちゃ!」

と、言ってくれていたから・・・

私は今年も来るだろう特注家具の依頼を、楽しみにしていたのだ。

 

 

 

あれから8カ月が経過した・・・

 

 

 

そして先日・・・

 

 

 

 

T様は亡くなった。

 

 

 

 

私は葬儀が終わってから奥様に電話をし、

 

 

 

「お参りしたいから自宅に伺ってもいいですか?」

 

 

 

と伝えると、快く受け入れてくれた。

部屋に入り、私は奥様の顔を見ただけで、

急にとめどなく涙が溢れてきて止まらなかった。

 

奥さまとは、T様と出逢った頃の馴れ初めの話から

合計、2時間ほど話をしたと思う。

 

帰りに、テーブルにひくPSマットを奥様から依頼され、

「そんなつもりで来たんじゃないです」

と言うと、

「初めから欲しかったから!」

と言って、何度も

「注文させて欲しい」

と言われた。

 

そして2日前、

 

弊社社員を連れて納品にいき、

「T様と奥様と私。また3人で写真を撮りたい」

と言うと、これも快く受け入れてくれて、私に遺影を渡された。

 

 

 

大切な忘れられないお客様 高場さん有難う ミヤモト家具 社長ブログ (2)

 

 

 

二度と忘れられない、思い出のフォトアルバムになった。

 

 

 

私は、これまでの20年のお付き合いの間に。

T様から沢山の仕事を教えて頂いた。

文句を言われて肩を落とし、帰った日の出来事。

 

お釣りを渡し、

「あんちゃん、これで珈琲でも飲みにいくか?」

と言われた日の出来事。

 

癌になってから

「俺はもう長くないから、あんちゃん、俺の葬式にきてくれるかのぅ」

と言いながら、いつになく弱気な言葉を掛けられ、逆に私が叱った日の出来事。

 

話し相手になって、お叱りを受けたと思えば、恥ずかしながらも

「ワシは、あんちゃんからしか、家具は買わんけんのう…」

と言われ、帰りの道中、嬉しくて嬉しくて、

泣いて帰った日の出来事。

 

 

 

それが、走馬灯のように鮮明に思い出されて、

じぶん・・・悲しくて悲しくて・・・

なんと言うか・・・

もう、本当に・・・言葉になりません。。。

 

 

 

ミヤモト家具 社長ブログ 高場さんの家具は自分が守る!

 

 

 

どんな辛い時も、ずっと見ていてくれたヒトがいる。

どんな時にも、ずっと応援してくれたヒトもいる。

時に叱り、そして時に励まし、

自分達の成長を、心から喜び、勇気をくれたヒトがいる。

 

 

 

 

高場 敏光さん 享年79歳

 

 

 

 

彼もまた

私の、「大切なヒト」である(*^-^*)

 

 

 

 

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代表取締役  宮本  豊彰

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PROFILE
  • 株式会社ミヤモト家具代表取締役 宮本 豊彰
  • ミヤモト家具ホールディングス(株)、(株)Vintage Factoryの代表取締役であり創業者。オリジナルブランド【AF Lusty Road】のディレクター。国産家具ブランド【SOLID】及び【RENSEY】の立ち上げに、共同創業者として携わり、パートナーショップを全国に展開。(株)ミヤモト家具の代表取締役も歴任し、幼い頃に亡くした父親と祖父母を想い、家族で営んでいた【宮本タンス店】を、自身集大成のインテリアショップとして復活すべく、52歳で跡継ぎになる事を目指した実業家。座右の銘は【情熱は伝染する】。現在48歳3児の父。

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